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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)11627号 判決 1975年1月28日

原告(昭和四五年(ワ)第八六七九号被告)

新島武雄

原告

笹井政雄

右両名訴訟代理人

村上直

外二名

原告

斎藤伊三郎

右訴訟代理人

片山一光

外二名

被告(昭和四五年(ワ)第八六七九号原告)

丸静商事株式会社

右代表者

谷口好雄

右訴訟代理人

谷口欣一

外二名

主文

被告丸静商事株式会社は、原告新島武雄に対し金二五〇万円、原告笹井政雄に対し金三〇〇万円、原告斎藤伊三郎に対し金四三〇万円並びに右金員に対する各昭和四五年三月一日から右完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

被告丸静商事株式会社の原告新島武雄に対する請求を棄却する。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は三分し、その一を原告らの負担、その余を被告丸静商事株式会社の負担とする。

第一項に限り仮に執行することができる。但し、被告丸静商事株式会社が原告新島武雄に対し金一五〇万円、原告笹井に対し金二〇〇万円、原告斎藤伊三郎に対し金三〇〇万円の担保を供するときには右仮執行を免れることができる。

事実

第一  双方の申立

一、原告(昭和四五年(ワ)第八六七九号被告)新島武雄(以下原告新島と略称)

被告(昭和四五年(ワ)第八六七九号原告)丸静商事株式会社(以下被告丸静商事と略称)は、原告新島に対し金三五八万円およびこれに対する昭和四五年三月一日から右完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

被告丸静商事の原告新島に対する請求(昭和四五年(ワ)第八六七九号)を棄却する。

訴訟費用は被告丸静商事の負担とする。

右第一、三項につき仮執行の宣言を求めた。

二、原告笹井政雄(以下原告笹井と略称)

被告丸静商事は原告笹井に対し金四三八万四〇〇〇円およびこれに対する昭和四五年三月一日から右完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告丸静商事の負担とする。

右判決につき仮執行の宣言を求めた。

三、原告斎藤伊三郎(以下原告斎藤と略称)

被告丸静商事は原告斎藤に対し金六三八万七二〇〇円およびこれに対する昭和四五年三月一日から右完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告丸静商事の負担とする。

右判決につき仮執行の宣言を求めた。

四、被告丸静商事

原告新島は被告丸静商事に対し金二二六万三〇〇〇円および昭和四五年四月一六日から右完済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

原告新島、同笹井、同斎藤の被告丸静商事に対する請求(昭和四五年(ワ)第一一六二七号事件)を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第一、二項につき仮執行の宣言を求めた。

第二  双方の主張<以下省略>

理由

一被告丸静商事の原告新島に対する請求原因(昭和四五年(ワ)第八六七九号事件)(一)および(四)記載の事実は当事者間に争いがない。

また、原告新島の被告丸静商事の請求原因に対する抗弁ならびに原告らの被告丸静商事に対する請求原因(一)の(1)ないし(3)並びに(二)記載の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二そこで、原告らの被告丸静商事に対する不法行為による使用者責任を求める主張について考える。

<証拠>によると次の事実を認めることができる。

(1)  被告丸静商事の熊谷営業所次長斎藤和真は、自己の外交成績を挙げるため、昭和四四年一〇月下旬頃から同営業所外務員田地川正彦を伴い同田地川の顧客である原告らを訪ね、同人らがかねて商品取引で損をしているところから、その損を取戻す絶好の機会だとのふれ込みで、原告らに対し、それ程の確信もないのに、確実な極秘情報であるからと口止めをしたうえで「実は、商品仲買人の増山商店が小豆三〇〇〇枚を買占めたのを、商品仲買人岡地を通じて日本トムソンの社長寺尾が買取つたが、岡地を通じて、同年一一月よりこれを本格的に売出すので、相場は間違いなく暴落する、これと歩調を合わせて売建玉をすれば必ず儲かる。この情報は岡地の外務員中田からのもので、同人はトムソンの扱人をしており、かつて、自分が世話をみてやつたので、その恩返しとして内密にしてきた確実な情報であり、原告ら一人が一〇〇枚の売りができるよう四〇〇万円の委託証拠金を用意すれば四〇〇万円以上を絶対に儲けさせてやる」と申向けて、小豆先物取引の売建玉を勧めたこと

(2)  原告らは、右勧誘を受けた当初においては、斎藤和真の右発言を容易に信用することができずこれに応じなかつたが、和真らが再三足を運んで執拗に勧誘をしたことと、更に、和真らが「仮に、この取引で損がでても被告丸静商事で責任を負う」との発言もあつたところにより、遂に和真らの勧めに応じ、原告新島は深沢伸一名義で昭和四四年一一月一四日から別紙(一)の(2)記載とおりの売建玉、本人名義で同年一一月二日から別紙(一)の(1)記載とおりの売建玉、原告笹井は昭和四四年一一月七日から別紙(二)記載とおりの売建玉、原告斎藤は昭和四四年一一月一三日から別紙(三)記載とおりの売建玉にいずれも踏切つたこと

(3)  ところが、その後の小豆相場は、原告らの売建玉の直後にほんの二、三日だけ下向いたこともあつたが、ほぼ一貫して斎藤和真のいうように相場の暴落はなく、上昇し続け、同年一二月下旬に到つては原告らの前記売建玉につき追加委託証拠金の納入を必要とする事態に追込まれたこと、そこで、斎藤和真はこの予想外の事態に対拠するため、原告らに対し、各売建玉に対し買建玉をなして両建とすることを勧めたが、原告らがこれ以上和真の勧めに乗ることを拒否する態度を示したところから「両建して貰えないとすれば損害が増大し被告丸静商事において原告らの損害を填補することはできない」旨の発言をなし、強引に両建に必要な委託証拠金の納入を求めたこと、その結果、原告新島は已むなくこれを納入して別紙(一)の(1)および(2)記載のとおり同年一二月二五日と同月二六日に買玉を新たに建て、従来の売建玉に対する両建とし、また、原告斎藤も同じく別紙(三)記載のとおり同年一二月二二日に新規買玉を建てて両建としたが、原告笹井においては両建のための委託証拠金の調達ができないところから別紙(二)記載のとおり同年一二月二五日に先の売建玉六〇枚を手仕舞つたうえで同月二七日に買一〇枚を建玉して残売建玉一〇枚に対する両建としたこと

(4)  しかし、相場はなおも上昇を続けたが、昭和四五年一月九日に一時下がる傾向を示したため、原告らは斎藤和真らの指示により別紙(一)の(1)および(2)、同(二)、同(三)記載のとおり、先きに両建としてなした新規買建玉を外して手仕舞とし、従来の売建玉を残して相場の暴落に期待をかけて待つたが、その後はまたもや相場は上昇し、結局原告らは斎藤和真らの指示にまかせる型で別紙(一)の(1)および(2)、同(二)、同(三)のとおり総てを手仕舞わざるをえない結果となつたこと

以上の事実を認めることができ、右認定に牴触する証人田地川正彦、同斎藤和真、同加藤栄一の各供述部分は前掲各証拠に照らして措信できず、他に、右認定を覆すに足りる証拠はない。なお、証人斎藤和真の供述中に甲第一号証および第八号証が昭和四四年一一月五日に作成されたものではなく、本件取引が総て終了した後に作成された旨の部分があるが、しかし、仮に、右書面が斎藤和真の供述のとおり作成されたものであるとしても、前記認定を覆えしうるものではない。

右事実によると、被告丸静商事熊谷営業所次長の斎藤和真らの原告ら対する本件取引における勧誘行為が商品取引所法第九四条第一項および第二項、東京穀物商品取引所受託契約準則第一七条第一号および第二号に違反することは勿論のこと、その情報提供および勧誘行為は、社会通念上商品取引における外務員の外交活動上一般に許された域をはるかに越えたもので、不法行為成立要件としての違法性を有するものと解するのが相当であり、また、本件取引によつて原告らが負担するに至つた差損金および手数料に相当する損害は斎藤和真の違法な右行為に基づくものであることを認めることができる。

したがつて、被告丸静商事は原告らに対し民法七一五条に基づき右斎藤和真らの使用者として右斎藤らがその職務を行うにつき原告らに与えた本件取引による差損金および手数料に相当する損害を賠償すべき義務を負うといわざるをえない。

三次に、被告丸静商事の過失相殺の主張につき考えるに、原告らが被告丸静商事の主張とおり商品取引については既に経験を有しているものであることは当事者間に争いがなく、また、商品取引が極めて投機性の高い危険なものであり、その相場情報も一般的に極めて不確実なものであることは公知事実であるが、これら事実からすると、原告らとしても、当時冷静に相当の注意を払つておれば斎藤和真の勧誘を拒けうる余地があつたことを認めることができる。したがつて、本件取引による原告らの損害の発生については原告ら自身にも過失があつたと解することができ、その他諸般の事情からみて、ほぼ三割の過失相殺を認めるのが相当である。

四以上の事実によると、

(一)  原告新島は被告丸静商事に対し別紙(一)の(1)記載の差損金および手数料相当の金八八万円および同(一)の(2)記載の差損金および手数料相当の金四九六万三〇〇〇円の合計金五八四万三〇〇〇円の損害賠償請求権のうちほぼ三割減額した金三八四万円の債権を有するところ、原告新島は、右債権をもつて被告丸静商事に対し本件口頭弁論において、被告丸静商事の原告新島に対する請求(昭和四五年(ワ)第八六七九号事件)による差損金および手数料合計金二二六万三〇〇〇円と対当額で相殺する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがないので、結局、被告丸静商事は原告新島に対し右相殺額を差引いた金一五七万七〇〇〇円ならびにこれに対する本件損害の発生後である昭和四五年三月一日から右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

(二)  原告笹井は被告丸静商事に対し別紙(二)記載の差損金および手数料に相当する金四三八万四〇〇〇円の損害賠償請求権のうちほぼ三割を減じた金三〇〇万円およびこれに対する本件損害の発生後である昭和四五年三月一日から右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めうる。

(三)  原告斎藤は被告丸静商事に対し別紙(三)記載の差損金および手数料に相当する金六三八万七二〇〇円の損害賠償請求権のうちほぼ三割を減じた金四三〇万円およびこれに対する本件損害の発生後である昭和四五年三月一日から右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めうる。

五よつて、原告らの被告丸静商事に対する本訴請求は前項の範囲において理由があるからこれを認容することとし、その余の原告らの請求並びに被告丸静商事の原告新島に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担については民訴法九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条第一項、第三項を各適用して、主文のとおり判決する。 (山口和男)

<別紙(一)(二)(三)省略>

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